「任意後見の契約をしたから、もう自分では自由にお金を使えないんですよね?」
財産管理等委任契約と任意後見契約を公正証書で結んだ方から、こうしたご質問をいただくことがあります。
結論からお伝えすると、それは誤解です。
財産管理等委任契約の段階では、ご自身のお金をご自身の判断で使うことに何の制限もありません。
この記事では、なぜそう言えるのか、そしてなぜ誤解が生まれやすいのかを解説します。
財産管理等委任契約は「権限を取り上げる」契約ではない
財産管理等委任契約は預貯金の出し入れや支払い、役所の手続きなどを信頼できる人に「代わりにやってもらえるようにする」契約です。
ポイントは、この契約がご本人の権限を制限するものではなく、受任者に代理の権限を「追加」するものだということです。
| ご本人 | 受任者 | |
|---|---|---|
| 買い物・支払い | ✅ これまでどおり自由にできる | ✅ 契約で決めた範囲で代理できる |
| 預貯金の管理 | ✅ ご自身でもできる | ✅ 契約で決めた範囲で代理できる |
| 契約の見直し・解除 | ✅ いつでもできる | — |
つまり、「自分でもできるし、頼めば代わりにやってもらえる」という状態です。
スーパーでの買い物はもちろん、家電や洋服を買うことも、旅行に行くこともご本人の自由です。
公正証書で同時に結んでも、任意後見はまだ始まっていない
誤解が生まれやすいのが、財産管理等委任契約と任意後見契約を同時に公正証書で結んだケースです。
任意後見契約は契約を結んだ時点ではまだ効力がありません。
効力が生じるのは、
- ご本人の判断能力が低下し、
- 家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任したとき
です。
任意後見契約は法務局に登記されますが、登記されただけでは任意後見は始まっていません。
この段階の相手方は、あくまで「任意後見受任者」、つまり将来の後見人の予定者です。
ですから、判断能力がしっかりしていて、家庭裁判所の手続きも行われていない段階では、任意後見による制約は一切ありません。
実は、任意後見が始まった後でも買い物は制限されない
さらに知っておいていただきたいのは、任意後見が始まった後でも、ご本人の行為能力は制限されないという点です。
任意後見人には、ご本人がした契約を後から取り消す権限(取消権)がありません。
これは、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」との大きな違いです。
| 任意後見 | 法定後見(成年後見) | |
|---|---|---|
| 後見人を選ぶのは | ご本人 | 家庭裁判所 |
| ご本人の行為能力 | 制限されない | 制限される |
| 後見人の取消権 | なし | あり |
| 日用品の買い物 | ご本人ができる | ご本人ができる(取り消しの対象外) |
なお、法定後見の場合でも日用品の購入など日常生活に関する行為は、ご本人がしたものを取り消すことはできません。
どの段階であっても、日々の暮らしのための買い物がすべて禁じられることはないのです。
なぜ「自由に使えない」と感じてしまうのか
法律上は自由であるにもかかわらず「使えない」と感じてしまうのには、いくつかの理由があります。
① 通帳やキャッシュカードを預けている
受任者に通帳やカードを預けていると、手元にお金がなく、実際に自由に使えないように感じます。
ただし、これは法律上の制限ではなく、管理の方法の問題です。
② 「後見」という言葉のイメージ
「後見」と聞くと、「自分では何もできなくなる」という印象を持たれがちです。
しかし、前述のとおり任意後見は法定後見とはまったく仕組みが異なります。
③ 公正証書という「重さ」
公証役場で作成した正式な書類なので、「厳しく縛られている」と感じる方も少なくありません。
公正証書は内容を確実にするためのもので、ご本人を縛るためのものではありません。
「自由に使えない」と感じたときに確認したいこと
もし今、お金の使い方に不自由を感じているなら、次の点を確認してみてください。
✔ 代理権の範囲を確認する
契約書には、受任者に任せる事務の範囲(代理権目録)が記載されています。
何を任せていて、何を任せていないのかを確認しましょう。
✔ 管理の方法を見直す
「日常の生活費はご本人の口座で管理し、大きな支払いだけを受任者に任せる」といった分け方も可能です。
受任者に生活費として必要な額を渡してもらうよう求めることもできます。
✔ 報告を求める
受任者には、ご本人の求めに応じて財産の管理状況を報告する義務があります。
お金の出入りが分からないときは、遠慮なく説明を求めてください。
✔ 契約は見直し・解除ができる
財産管理等委任契約は、ご本人からいつでも解除できます。
任意後見契約も、家庭裁判所が任意後見監督人を選任する前であれば、公証人の認証を受けた書面によっていつでも解除できます。
大切なのは「ご本人の意思」
財産管理等委任契約も任意後見契約も、ご本人が安心して、ご自身らしく暮らし続けるための仕組みです。
受任者はご本人のために誠実に事務を行う義務を負っています。
任意後見が始まった後も、後見人はご本人の意思を尊重しなければならないと法律で定められています。
「自分のお金を、自分の好きなことに使う」のは当然の権利です。
契約を結んだからといって、その権利を手放す必要はありません。
もし不安や疑問があれば、ひとりで抱え込まずにご相談ください。
契約内容の確認・見直しもご相談ください
「自分の契約はどうなっているのか確認したい」「管理の方法を見直したい」――そんなご相談もお受けしています。
現在の契約書をお持ちいただければ、内容を一緒に確認いたします。
(ただし、弁護士ではないので受任者との話し合いなどには応じられません。)
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